無痛分娩の長所と短所をまず知りたい!
阿倍野区で長年お産に携わってきたSALAレディースクリニックの桝田院長先生。
ままちっち66号(2018年1月15日発行)で、無痛分娩についてお話しいただきました。
スペースの都合で掲載できなかった全文をこちらで紹介します。
自然分娩も含め、自分にあった出産を選ぶ参考にしていただければと思います。
硬膜外麻酔併用の無痛分娩について
最近、無痛分娩を受けた方が重篤な後遺症を残したり、亡くなったりという記事をよく目にします。たいへん痛ましいことですが「無痛分娩は怖い」というイメージが先行し、無痛分娩の取り扱いや、分娩そのものを止める施設も出てきています。分娩施設の減少や、分娩様式を制限されることは、妊婦さん・これから妊娠を考えておられる女性にとっても不利益です。無痛分娩に対する正しい知識を得ていただきたいと思います。
硬膜外麻酔併用の無痛分娩
麻酔の鎮痛効果や筋肉への弛緩作用で、出産時の痛みを軽減し、リラックスして出産をすることができるので、日本でも普及しつつある出産方法です。現在は欧米で一般的な、硬膜外麻酔により痛みをコントロールする方法が主流です。全ての出産に無痛分娩が可能とは限りませんが、分娩をスムーズに行い、管理の行き届いた計画的な出産を希望する方には良い方法です。赤ちゃんにも負担がかからず、子宮頚管(子宮の出口)が固い方や、血圧が高い方などに有効です。無痛分娩の長所・短所をよくご理解されたうえで、主治医の先生と相談されるとよいでしょう。
無痛分娩の長所
1, 痛みがかなり軽減され、妊婦さんが心身ともにリラックスして出産ができます。母体への負担が少ないため、赤ちゃんへのストレスも軽減。
2, 自然分娩と比較して回復が早く、疲労感が少ないことも特徴。産後の活動もスムーズです。
3, 分娩時に外陰部が広がりやすく、会陰切開なしに(もしくは少しの切開で)すむ可能性があります。
4, 緊急帝王切開になる場合、麻酔処置ができているためスムーズに移行できるのも副次的なメリットです。
無痛分娩の短所
1, 麻酔処置のリスク。全ての妊婦さんに硬膜外麻酔カテーテルが挿入できるとは限りません。
2, 麻酔が効きすぎた場合、最後の「いきみ」の力が入らず、吸引分娩の可能性があります。
3, 休日・時間外では医師や助産師等の人的不足のため、対応できないことがあります(通常、無痛分娩は事前に計画的に出産することができます)。
4, 出産の痛みを低減するのが無痛分娩の最大のメリットですが、痛みへの感受性は個人差が大きく、麻酔薬を投与しても痛みが強い場合があります。
5, 無痛分娩では麻酔薬を使用しますから、体質によっては低血圧・嘔吐などの副作用や、頭痛・背部痛をはじめとする合併症が生ずる可能性があります。
6, 無痛分娩の際には陣痛促進剤を併用することが多いですが、その併用に対してご理解が必要です。
7, 一般的な自然分娩の費用に加え、無痛分娩の費用が加算されます。無痛分娩では、いきみ不足から吸引分娩に移行することもありますが、陣痛促進剤の使用等を含めて、これらの場合は健康保険が適用できることが多いです。
一般的な無痛分娩の方法
1, 妊娠37週以降、分娩の条件が整っていたら、出産日を決め、前日に予定入院します。
2, 腰部に局所麻酔を打ち、脊椎骨間に針を刺し、硬膜外腔まで針を通し、そこに柔らかくて細いチューブ(カテーテル)を挿入します。これで麻酔の準備完了。ほとんど痛みはありませんし、麻酔の準備にかかる時間は数分です。
3, 超音波やNST(ノンストレステスト・分娩監視装置)などで診断し、母体と胎児の健康状態に異常がないかを確認します。
硬膜外カテーテルが確実に硬膜外腔に入っていることが最も重要で、これが入っていれば安全で安産をむかえられます。
4, 陣痛が弱い場合は、点滴も準備し、輸液ポンプを用いて、陣痛促進剤を投与します。
5, お産の進み具合や痛みの状態を観察しながら、麻酔薬や、陣痛促進剤などを注入していきます。
6, 陣痛は、おなかの張りとして実感できるので、子宮口が10cm開いたら、陣痛に合わせて自分でいきんで出産することができます。
いかがでしょうか?硬膜外麻酔併用の無痛分娩は、上手に進められば利益の多い分娩様式です。英国キャサリン妃が出産翌日に歩いて退院できたのは、この無痛分娩によって安産となったことが大きいと考えられています。
他の和痛(除痛)分娩の方法
硬膜外麻酔を用いた無痛分娩の他に、バランス麻酔を用いた鎮静薬(セルシン)と鎮痛薬(ペチロルファン)の筋肉内注射による和痛(除痛)分娩の方法があり、この方法でもかなりの痛みを抑えて赤ちゃんの誕生を迎えられます。 出産は女性にとって一大事なこと。苦しい時間を少しでも楽に過ごすことのできる方法として、検討される価値はあると思います。