「タブレット支援についての勉強会」のレポートです
読み書き、覚えることが難しい子どもが周りにいる方へ
先日「~発達障がいの子を持つ親の会~あゆみらいず」主催の「タブレット支援についての勉強会」に行ってきました。その内容をお知らせします。
講師は、NPO法人支援機器普及促進協会理事長 高松 崇先生で、ご自身のお子さんが支援学校に通っておられます。
以前の教育では、学習していくのに読み書きが土台だったので、自分の目で見て手で書いて、計算して、推測して、記憶して、と繰り返していました。でも、障がいのある子の中には、難しく、苦手意識があり、周囲がそのことを理解できずに困っている子がいます。その子たちの、特に就学前の保護者に向けて書きます。
デジタル教科書を導入する方針を発表
文部科学省は、2019年4月からタブレット端末を活用した「デジタル教科書」を、視覚障がいや発達障がいなどで通常の紙の教科書を使った学習が困難な児童生徒で、文字の拡大や音声の読み上げなどの機能によって負担を軽減させる必要がある場合には、紙の教科書を併用しながら、教育課程の全てで使用できるようにする方針を固めました。一般の児童生徒は、紙の教科書を主に使用しながら、教育課程の一部を学ぶ際、デジタル教科書で代用できる形になります。親世代にはなじみがない、どうやって使っていけばいいかわらない、と迷う人もいますが、IT学習の基礎を作ると、困難なところがクリアできて、今後の学習ができるようになります。
本当は、自分で鉛筆を持てたほうがいいし、簡単な数学もできたほうがいいです。でも、困難を抱える子にとって、ただ「がんばろうね」「繰り返せばできるよ」では厳しいです。加配(サポート)の先生や支援クラスで先生に教えてもらっても、宿題や卒業してから社会にでると自立できません。いつまでたっても主体性のない子どもになり、自分の力では学習できなくなるからです。学習障がいの子に対して、良いものか、どんなことにつまづくのかを、ちゃんと家庭で評価してからアプリなどを使うか決めてください。姿勢が原因の時があるからです。
文字を書くために
文字を書くためには、姿勢をしっかりフォローして、椅子に座って姿勢を保つようにします。鉛筆で書くためには、両足を前方で浮かせて利き手の手首を浮かせながら書きます。足が床につかない子は、自分の体重が足に乗るので、肘に体重がかかりすぎてしまい、体重が邪魔してすらすら書けません。本来は足に乗せて体幹で支えます。その時はトランポリンやバランスボールに乗ったりして体幹を鍛えると、書く姿勢が身につきます。
今の子どもたちは体を使って遊ぶ時間が足らず、ゲームでは親指を使うので、文字を書くのに他の指を使うのが難しくなります。文字を書くときに一番大事なのは人指し指です。人指し指に力をつけて鉛筆を持って、残り3本の指でしっかり支えます。そしてうまくいかない時は、そのままビー玉やスーパーボールを中指、薬指、小指ではさむなどしながら練習させます。でも、このように練習してもできない場合には、タブレットを使うとできるようになります。
教育関連アプリは現在、先生用と子ども用それぞれ約4000種類あります。日本語か外国語か、縦読みか横読みなど、いろいろわかれています。筆算、ノートのマスに文字を書くのができない(字が汚くてずれる、書くときに間違える)、電卓を使えない(知的障がいの場合、計算できないことが多い)など、いろんな子どもが使いやすいアプリがたくさんあります。
一部ですがアプリを紹介します。
★読むのが困難な場合は『もじかめ』
iPadのカメラをかざすだけで、文字をスキャンしてくれて、教科書の挿絵を切り取って文字だけ見せてくれます。眼球の動きの機械で調べると、1文字見るのに眼が2回か3回動いていて、先生と同じ内容を読むのに、眼が10倍以上動きます。※同じところを繰りかえして読むように言われるので、先生から見ると他の子と同じに見えます。読めているでしょう、と思われますが、それは間違いです。覚えているだけで、その子は疲労しか感じません。
★紙に書くのが難しい場合は『でかキーボード、こどもキーボード』
キーボードのサイズが変えられ1つ1つが大きくなるので、子どもにキーボードを合わせられます。絵を見ながら文字を打ちます。話すときには、ゲームをやりすぎてできない子には、例えばポケモンのゲームをしながらでも、今日どんなことがあったかなど、こちらから話かけます。iPadで入力すると、音声で読み上げてくれて、思いを伝えられます。安易にタブレットを使うと、実生活では、紙に書いたほうが便利なので困ることがあります。毎回写真を撮って書いていても、自分の手で書かないから覚えるのが難しいです。でも、書くのが難しい子は1日でも早くアプリを使うほうがいいです。
★自分の気持ちを文章にするのが難しい子場合は、『指電話、マインドマップ』
頭の中でキーボードを叩いて、自分の思った通りに並べると、文章になって、作文を作るのに役に立ちます。これは、慣れないとできないので以下のような練習が必要です。
① 本人が聞いて
② 絵がかいてあるキーボードを打っていきます
③ 順番を並び替えて
④ 文字に変換して
⑤ 繰り返して慣れていけば、できるようになります
★黒板の文字が読みにくい、黒板と文字の色の差が分からなくて、文字が読めない子、黒板とノートの空間認知が難しい子には、『CS(カムスキャナー)』
黒板と文字を、色の違いで判別して、必要な情報を自動で取り出してくれます。黒板が斜めに置いてあって、斜めからしか見えなくても、端から端まで取り出して、文字にしてくれます。黒板とノートの間を、目で追うのが難しい、いったりきたりするのが疲れるので、これがあると読みやすいです。
★一日の予定や作業の理解をするのが難しい、順番に動くことが難しい子は『かんたんスケジュール』
「リマインダー」機能は、場所と物(用事)で登録し、例えば「玄関で傘を持って出る」とか、「現在地や出発、登録地にアラームが鳴るように」とか、「スーパーで買うもののリストを、スーパーに着いたら教えてくれる」とか、あらかじめ入力すると通知が来て教えてくれます。
参加者からの質問にも答えてくださいました
Q:ラインについて。学校などで禁止されているが、大きくなって使うようになるといじめの対象にならないか。ネットいじめの標的になるのを防ぐにはどうしたらいいのか。
A:家庭で、ラインのやりとりをして練習させる。家族間で練習してみて、相手を傷つける言葉を使うなどの書き込みに問題があれば、その場で言うようにします。家庭教育なしで、学校で禁止されていて、急に社会で使い始めるから問題が起こるのであって練習しておけばトラブルを軽くすることができます。
Q:ゲームをなかなかやめず、時間を決めても守らないし、こちらが電源を切ると怒って暴れてしまいます。いい方法はありますか?
A:子どもによりますが、できるだけ標準の機能で処理します。アラームやタイマーをセットしておいて、時間が切れたら「ピピピ」と音が鳴るので停止するようにします。それでもだめなら、再生が停止して、電源がおちる機能を使います。
Q:ユーチューブを見たがるが、有害なサイトなどへの対応はできますか?
A:設定→機能制限→SaFariで「ユーチューブキッズ」だけにすると、子ども向け場面のみが出てきて、他のアプリが見られなくなります。
Q:大人になってからも、道具に頼っていると自立しない、道具がなければ生きていけない子になるのが怖いです。
A:大きくなるにつれて、自分1人だけ道具を使うのは違和感がでてきます。そういうときには、他のペンと見た目が変わらない、ペン型ワイヤレススキャナーを使うと便利。ペンで字をなぞれば、音声で読み上げてくれるので、文字を読むのが苦手な子には使えます。また、大きくなるにつれて、自分に合った学習方法を見つけられるので、道具を使わなくても大丈夫になります。
Q:迷子になりやすい子がいます。自分の気分の向く方に勝手に行って、探すのが大変で。いい方法がありますか。
A:TrackerPad Sicky GPSという、シール状のものがあります。大事なものに貼って、盗難されたら見つかるように自転車のサドルの裏に貼るとか、子どもの靴の中敷きなどに貼って(鞄に貼ると、子どもはすぐに剥がしてしまいます)迷子防止に使います。シール状で薄いので、財布にも入れられて、管理にも役立ちます。
今後学校では、アナログが少し残っているだけで、20年後にはおそらく授業ではそんなに書くことはなくなります。アナログかデジタルか、できるだけ自分に近い方法で学習していってください。読む、書く、計算する、記憶することは、できたほうがいいに決まっています。でも、代替手段でできれば、できないよりもはるかに便利です。最後はiPadを使う方法がありますし、これからは自分で学びたい方法で学習できるようになります。
講座を聞いて感じたこと
世の中、IT化が進んでいるとは言っても、今の生活で使わなくても困らないし、まだ遠い先のことだと思っていました。でも、発達障がいの子が、少しでも楽になるのなら、そしてこんなにたくさんのアプリがあるのなら、使ってみようと思いました。ただ、姿勢や鉛筆の持ち方がうまくいかなくて勉強が難しいかどうかの見極めはすごく大事なので、忘れずに確認していきたいです。講座に使用した資料は、NPO法人支援機器普及促進協会のホームページからダウンロードできます。「ICT機器に学習支援-あゆみらいず 資料」をクリックしてダウンロードしてください。