帝王切開後に悩むママの質問に産婦人科の先生が答えてくれました
「産後ずいぶん時間が経つのに傷口にかゆみがまだ残っていて、いつになれば完全に回復するんだろう…」というママの声が届きましたので、SALAレディースクリニックの桝田院長先生に伺ってみました。
予定帝王切開と緊急帝王切開
帝王切開とは、普通分娩(経腟分娩)では母体と赤ちゃんに危険が伴うと判断された場合に、リスク回避のために行う分娩手段で、開腹手術により赤ちゃんを取り出します。
帝王切開には予定帝王切開と緊急帝王切開の2つがあります。予定帝王切開は、普通分娩によるリスクがあると妊娠中に判断された場合、あらかじめ出産日(手術日)を決めて行うものです。陣痛が来る前に行う必要があるため、一般的に妊娠38週前後に設定されることが多いです。
これに対して緊急帝王切開は、普通分娩の予定が、分娩中に胎児か母体のどちらか(あるいは両方)に予期しなかった緊急事態が発生した場合に行われるケースをいいます。たとえば、出産の前に胎盤が急にはがれてしまったり、赤ちゃんの心拍数が異常だったり、陣痛開始後にお産の進行が止まってしまったという場合などです。
帝王切開は、陣痛が怖い、お産を楽にしたいなどの理由では行われません。また、お腹を切る手術ですので、麻酔が切れた後は切開部位にもちろん痛みはありますし、回復まで比較的長い期間を要します。
術後の回復の経過
一般的に、痛みは術後3日目までがもっとも強いといわれます。この期間は患部の「炎症期」と呼ばれ、皮膚の再上皮化(再生した上皮が形成されること)が起こって傷口が閉じていくのですが、この際に皮膚に痛みや腫れが生じることがあります。
術後3週間くらいまでが「増殖期」となります。新しい細胞が増殖して傷になった部分を埋めていく期間です。強い痛みはありませんが、軽い痛みやかゆみ、皮膚の赤みなどが見られることがあります。
3週間を過ぎたら「成熟期」に入り、およそ1年を目安に回復に向かっていきます。細胞の活動が落ち着いて痛みやかゆみは徐々になくなり、傷跡も白く目立たなくなっていきます。ただ、まれに傷口になんらかの異常が起こった場合は、赤く盛り上がって目立つように残ってしまうこともあるようです。
傷跡を目立たなくする方法
傷跡をできるだけ目立たないようにする方法の1つに、テーピング法と漢方薬の内服という方法があります。「炎症期」から「増殖期」に始めるこれらの方法は、授乳を止めることなく通常の生活を営めるため、ぜひお勧めしたい方法です。
切開方法により、治癒期間も変わってくる
傷口の治癒は、切開の方法によってその期間が変わってくる場合もあります。通常、帝王切開は皮膚を横に切るのですが、緊急を要する場合は縦に切ることもあります。縦の場合は手術開始から赤ちゃんを取り出すまでの時間が短く、術後の傷の治癒が比較的早いというメリットがあります。ただ、ビキニラインに沿う横の切開よりも傷口が目立ちやすいというデメリットもあります。予定帝王切開であれば、切開の方法などが気になるときは事前に相談してみてください。医師の説明をしっかり受け、きちんと理解、納得したうえで手術に臨むことが大切です。
退院後もできるだけ安静に
術後2~3日は切開部の痛みも強く、生活に支障が出ることもあると思いますが、医師や助産師に適切な処置やサポートを受け、無理せず過ごしてください。体調が良ければ、早い回復のためにも医師や助産師の指導のもとできるだけ身体を動かし、授乳など赤ちゃんのお世話も積極的に行いましょう。
退院後は、すぐに育児や家事のすべてを自分で完璧に行おうとせず、産褥期は赤ちゃんと自分の身体のことを優先に考えるようにしましょう。帝王切開は分娩でもあり手術でもあるため、身体の負担は普通分娩より大きい状態にあります。傷口の治癒までにはまだ長い時間がかかります。また、身体は子宮復古などが行われる産褥期(身体が妊娠前の状態に戻っていく時期で産後6週間を指します)の状態でもあります。できれば、1か月健診までは安静に過ごすことをおすすめします。家族などに協力を得られれば一番ですが、難しい場合は各地方自治体で「産後ケア事業」を行っているので、このようなサービスを活用してみるのもいいでしょう。
赤ちゃんのためにも、ママの回復を一番に考えた生活を送ってください。
2人目の分娩について
また、帝王切開では、お腹と子宮を切開し、その傷の部分が周りの子宮壁より薄くなるので、2人目以降の妊娠・出産時に子宮破裂を起こすリスクが高まります。2人目以降の妊娠に向けて子宮が回復するのを待つために、一般的に「次の妊娠まで最低1年は期間をあけるように」と指導しています。上の子を母乳で育てていると、月経が再開するまで時間がかかることもありますが、月経が来なくても排卵をしている可能性はあります。次の妊娠を望まない時期であれば、万が一のことを考えて、常に避妊をすることが大切です。
帝王切開で出産したママが、2人目以降に経腟分娩を選択することをVBAC(Vaginal Birth After Cesarean/ブイバック)といいます。しかし、VBACには子宮破裂のリスクがあります。帝王切開をすると切開部分の子宮壁が薄くなっているため、次の妊娠では、大きくなった子宮が収縮した際に破れてしまう危険があるのです。この理由により、一般的には1回帝王切開すると2回目以降も帝王切開をおすすめすることになります。「どうしても次は経腟分娩がしたい」という場合は、VBACに対応できる設備が整った病院と、VBACの経験がある医師のもとでの出産を選び、どんなリスクが伴うか事前にしっかり話し合っておくことをおすすめします。
産後ケア事業の利用がおすすめ
家族など周りの協力を得にくい状況にある場合は、「産後ケア事業」を活用することをおすすめします。これは、国のガイドラインによって各市区町村が行っているサービスで、出産後の身体的な不調や回復の遅れがあって休養が必要な人、家族などからの十分な育児・家事の支援が受けられない人などを対象にしています。サービスは、主に助産師・保健師・看護師が行い、出産直後から産後4か月を目安に受けることができます。