大阪急性期・総合医療センター 生殖医療センター
ままちっち73号(2019年10月15日発行)に掲載の『妊娠を考えはじめたら、知っておきたい「不妊治療」』の後編です。
前編に引き続き、大阪急性期・総合医療センター 生殖医療センターの久保田先生、胚培養士の辻先生にお話をお聞きしています。後編では、体外受精の裏側のお話をお聞きしています。また、めったに入る機会のない施設内部も見せていただきました!
いくつもの偶然が重なって実現する体外受精
体外受精で卵子を採るのは、排卵のタイミングです。排卵とは、1個卵胞が破裂して卵子が卵管を通り子宮に送られること。これを治療の際には事前処置のホルモン薬で卵胞が複数個育つようにしておき、できるだけ多く採卵できるようにします。 というのも、1~2cmほどの大きさの卵胞から0.1mm程度の小さな卵子を採るときに、卵胞の中のどこに卵子があるかは外側から判断はつきません。医師がありそうなところに針を刺して吸引します。1つの卵胞から必ず1つ卵子が採れる訳ではありません。実際の確率としてはおおよそ5割、よい時で7割程度と言ったところです。
体内で1番大きな細胞と1番小さな細胞が出会う「妊娠」
だいたい卵子は100マイクロメーター、1ミリの1/10なので顕微鏡でしか見えない大きさです。さらに精子は10マイクロメーター、1ミリの1/100しかなく私たち人間の体内で1番小さい細胞です。ちなみに卵子は体内で1番大きい細胞なので、体内で1番大きい細胞と1番小さい細胞が出会って妊娠するんです。本当に奇跡ですよね!
たまご(胚)の成長を見守る、緊張感に満ちた培養士のお仕事
医師が卵胞液と精液を取り出すと、次は培養室の培養士の手に渡ります。卵胞液から卵子を採取し、精子と受精させ、培養室で卵が育つのを見守ります。
受精卵は液体窒素で凍結させるのですが、この液体窒素がなくなるとせっかくの受精卵が台無しになってしまうため、片時もなくなることがないように厳重に管理しています。
また、受精卵の取り違えもあってはならないこと。そのために、生殖医療、とりわけ培養室のセキュリティは厳重に、生殖医療に携わっているスタッフのみ出入りできるようになっています。また、受精卵のバーコードでの管理や、取扱う際や保管する際には、人の手でのダブルチェック・トリプルチェックと考えうる最大限の工夫をしています。
予測困難な生命の神秘
また、受精後は育ってくれるか、を見守るという過程があります。これも本当に予想が難しくて、これは育ってくれそうだと思ってもうまく細胞分割しなかったり、逆にちょっと難しいかもしれない、と思った受精卵が予想外によく細胞分割してくれることもあるんです。本当にそこには生命の神秘を感じさせられます。できるだけ患者さんの希望する結果を出すためにも、新しい研究をチェックしたり自身の技術を高める努力も怠らないでいたいと強く思っています。
取材を終えて…
正直、今までは不妊治療というと「つらい」「痛い」というネガティブなイメージが大きかったです。でも取材を通して久保田先生や辻先生のお話を聞く中で、イメージが変わりました。命を育むという奇跡を実現させられるように、医療スタッフが協力して真剣に情熱を持って、子どもを望むご家族に寄り添い、一つひとつの治療に取り組まれていることに、とても感動しました。子どもを望んでおられるご家族にとって、心強いことではないかと思いました。