子どものほめ方や叱り方、どうすればいいの?悩むことが多い子どもへの声かけについて、専門家の先生にお話しを伺いました。
答えてくれたのは…
【廣瀬 恵子さん】
発達支援幼児教室「フォルテ・キッズ」・個別学習支援塾「フォルテ・アカデミー」(阿倍野区王子町)代表。長年療育事業所で心理士として勤務し、たくさんの子どもたちの成長に携わってきた経歴を持つ。2人の子どものママ。
はじめに
なぜほめたりしかったりするかというと、10年後、20年後、この子たちが大きくなったときに、人とうまくやったり、やさしい心を持てたり、社会のルールを理解していたり、自己肯定感を持ったりするためなんです。その時にこちらが受けた気持ちで子どもに接するのではなく、自分がどういう声かけをしたら子どもがよりよい生き方を選んだり自分で考えたりできるかを考えてあげましょう。危ないことをするのはだめですが、「だめ」っていわれると子どもは次に何をしてよいかわからないし、何をするか自分で決めずにその指示を受けて指示を待つ人になってしまいます。だからあまり「だめ」って言葉を使わないであげてほしいです。選択肢を提示してあげるとか、「こういうふうにしたらよいよね」というヒントをあげるような声かけの仕方をおすすめしています。
Q1.子どもをほめるとき、つい「すごいね」「えらいね」などワンパターンになりがち
何がすごいのかということを具体的にほめたらいいかなと思います。たとえば自分がやってることを言いにきたときには、そういうものを作れたプロセスをほめる。「立派な大きい物が作れて、こんなすてきな物ができるなんてうれしいね」って。子どもはうれしい感情を共有したくて来ているので、感情に共感するのがいいですね。「あなたがうれしいから私もうれしい。お母さんもすごい幸せだよ」みたいな感じで。できてる物そのものをほめるというよりも、プロセスや気持ち、そしてそれを持ってきてくれたこと、自分に報告してくれたこともうれしいというのを伝えてあげると、すごくいい関係性ができます。
Q2.子どもが偏食でパンしか食べません
栄養を摂ってほしいと思うでしょうし心配になると思いますが、食べなくても大きく育っているなら大丈夫ですよ。子どもは口の中の感覚が過敏なので、私たちより味覚がシビアに感じられます。それが苦痛に感じる子には、あまり無理強いしてその食べ物を食べさせる必要はないのではないでしょうか。
メインの時間はパンでもいいですが、間食にほしがる場合はすごく悲しい顔で「パンないんだ。食べたいよね、おなか減ったよね、おにぎりだけならあるんだけどどうかな」みたいに言ってみるのはどうでしょう。パンはその子の手が届く場所には置かないでください。おにぎりを食べない場合は「置いておくから食べていいけど無理しなくていいよ」と言う。夜食は食べなくても死なないですから。伝え方が大切です。イライラは出さず「あなたのことが好きなお母さん」っていう女優になりましょう。
時間がかかるようであれば、ご飯は何時から何時までか言って、その時間帯は出して一緒に食べる。できれば食事中はウロウロさせないように、「もう1回立ったらおしまいになるけどいい?」と告知の声をかけます。それでも立ってしまったら「じゃあごちそうさまするね、片付けちゃうけどいいね」と確認をとって片付けるんです。そのあとで「おなかすいた」と言われても「もう全部捨てちゃった、ごめんね。次のご飯まで待ってね」って言って見せないであげてください。そうしたらちょっとずつ時間通りに食べるようになるかもしれません。
Q3.発達段階にあった声かけをするには
1歳のうちはまだ能力開発中。やることは全部自分が生きるための運動です。基本的に叱ることは0でいいと思います。逆に子どもがやることを肯定してあげ、一緒に喜んであげる環境を作ってあげてください。基本まだ怒られても理解できないので、そもそも危ないところでひとりにせず常に見てあげて、どうしても危ないことをしたら「だめ」ではなく「危ない」と短く言うとよいです。
3、4歳ぐらいになってくると、自分の中で人との関わりも増えるし、認めてもらいたいという気持ちも増えてきます。できたことをほめるというよりも、「一生懸命がんばって楽しいね」とか、その子のしている行動や喜んでいることに共感して、それを伝えてあげるのが大事だと思います。いけないことをするときには理由があります。その目的を親が把握していないと、エスカレートしてしまうこともあります。基本的にはだめなこと、危ないことは別の行動を提示してその場から離します。また、「それをしているのはお母さんは悲しい」ということだけ伝えるとよいのではないかと思います。
小学生くらいになったら「対等に人として見てるよ」というのが相手に伝わるような声かけの仕方がおすすめです。「すごく尊重してる」「あなたの行動はあなたが責任取れるってわかってるから」というスタンスで。
声かけの仕方は発達の段階によって変えていく必要がありますが、1つ言えるのは、こちらが感情的に怒っても変わりません。困った行動や不適切な行動は、適切なやり方を知らないから起こることが多いです。正しいことを知らないんだったら怒る必要はなくて、こうしたらいいんだよと伝えてあげる。基本的にはあまり怒る必要はないと思っているんですが、どうしたら、どういう声かけをしたら適切な行動が身につくかというのを考えていく仕事を「叱る」っていうことだと思ってもらえれば。
Q4.注意をしても同じ行動を繰り返してしまう
行動には必ず目的があってだいたい4つに分かれています。自分の要求のためなのか、注目をもらうためなのか、逃げるためなのか、自分の感覚を満足させるためなのか。子どもが何か行動したときにまずはその行動を何のためにやっているのかを考えてあげてましょう。もし親の注目を向けるためにうどんをこぼすのだったら、こちらが反応したら何回でもやります。食べたくないからであればそこで別の食べ物をあげると「食べずに済んだから今度からこうしよう」となってしまいます。もしくはどんぶりをひっくり返す感覚が楽しくてやってるのであればそもそもそのどんぶりが問題ですし。いろんな理由があるので、一概にやったらいけない行動だからと叱ってしまうと、変な誤学習を生んだりします。
また、いけないとわかっててやったのかうっかりさんだったのかというのはちゃんと見てあげてほしいです。たとえばうっかりご飯をこぼしてしまったのなら、怒らず「落ちちゃって悲しいよね、一緒に拭こうね」と言ってどうやったらリカバリーできるかを教えてあげましょう。失敗はその子に新しい手段を伝えるチャンス。その子が「自分はこのままでいいんだ」と思えるために、失敗だったら笑顔で違う対策方法を伝え、励ますというのが私たちの仕事です。
どうしても許せない行動だけはきっちり叱るとよいと思います。「それはお母さんは好きじゃないから/危険だからこうしてほしい」ってちゃんと言う。それ以外のあまりしてほしくない行動やしてほしい行動はほめてあげ、どうしてもというものだけ叱るようにすると、いい関係性ができて「こうした方がいいよ」という提案を聞いてもらいやすくなります。
人は自分がした行動によっていいものが得られるとその行動が増え、いやなことがあったら減っていきます。さらに自分がした行動で結果が変わらなかったら、その行動はなくなっていくんです。だからたとえば子どもがお菓子を買ってほしくて寝転がって泣き叫んだときに、最終的に買ってしまうと、その子は「ほしいものがあったら寝転がって大きい声で叫んだらいいんだ」ってことを学んでしまうんです。だから、注目せず泣いているのを静かに待ってください。子どもが一瞬でも泣き止んだら「泣きやめたね、どうしてほしい?お菓子がほしいんだったら『お菓子ほしい』って言って」と言ってあげてください。それで「お菓子ほしい」って言えたら買ってあげる。ほしいときの手段を教えてあげるんです。「だめ」と言ってもまだわからないし、その子は「泣いたらだめだったけど『お菓子ほしい』って言ったら買ってもらえた」と学ぶので、少なくとも泣き叫ぶ行動は無くなっていきます。
その行動は何か目的があってやってることなので、問題行動を減らしたかったらなるべく注目しないでやめた瞬間/違う行動をとれた瞬間にほめる。違う行動がわからなさそうであれば「こういう行動もあるよ」とまず提示してサポートしてあげて、だんだんいい方向に修正をかけていくとよいです。よくない行動には一旦反応しないで、やめてくれた瞬間に「やめてくれてありがとう、うれしい」と言ってあげましょう。これは何もしていない(=問題行動をしないでくれている)ときもほめてあげてください。
Q5.兄弟で同時に泣き叫んだ場合
基本お兄ちゃんを優先してあげてください。弟にはちょっとの間泣いてもらってください。かわいそうだけど大丈夫だと思います。構ってくれる人がいっぱいいるのは下の子なので。基本お兄ちゃんの話をきいてあげて、話が入るような年齢になってきたら、「順番に聞くから待ってね」と言ってちゃんと待つことも教えてあげてほしいです。あとは、兄弟げんかはさせてあげてください。親は基本両方好きというスタンスで、親が干渉したりどちらかに味方とかはあまりしない方がいいです。
Q6.子どもの言葉が聞き取れず、わからない
思考力が出れば出るほど、理解してもらえないのはもどかしいじゃないですか。どうしてもわからないのに適当にわかったふりをするのは傷つけてしまいます。「一生懸命考えてることを伝えようとしてくれてるのがすごくうれしいよ、ありがとう」って言って待ってあげるといいです。それでも伝わらない場合でも、何度も聞き返したり謝るのではなく、話そうとしてる行動はすごくうれしいしもっと言ってほしいと思ってるんだと伝えてあげて、伝えようとする努力をほめてあげてください。
Q7.公園で大きい子の危険な行動をまねしてしまう
大きい子の年齢もありますよね。小学生くらいの子だったら、「今小さい子がいるからごめんね」と大きい子に一声かけてもいいかもしれません。意外と子どもって気づいてないんですよ。
こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、親の見えるところでちょっとしたけがをしてくれた方が、親の目が離れた歳になって加減がわからず大きなけがをさせてしまうよりずっといいのかなと。けんかもそうで、全然けんかさせないで親がいつも仲介していると、その加減がわからないですが、小さい頃からちょっとずつ小競り合いをしていたら、「ここまでだな」みたいなのを感覚的に学ぶかもしれません。全部先回りして止めて守り切る必要はないと思っています。
Q8.子ども同士のけんかで、一方が泣いてしまった
泣かせた側には怒る前に何がしたかったのかを聞いてあげてください。泣かせることが目的じゃない場合の方が多いと思うので。「次からこういうふうにしたらどうかな」などこういうやり方だったらうまくいくという解決策を伝えてあげるとよいでしょう。そのあとに「(相手の子が)泣いちゃったよね」と伝え、「自分も泣いたら悲しいよね、今この子は泣いてるからごめんなさいしようか」と言ってあげてください。反省させることはまだできないので、とにかく子どものやりたかったことにフォーカスして、その解決策を伝えてあげて。泣いた子には「ちょっと離れて遊ぼうね」みたいな感じでしょうか。けんかもチャンスと思っていい経験にしてあげてください。
Q9.ごめんなさいを言える子にするには
「ごめんなさい」を強要すると、「ごめんなさい」という言葉自体が怒られたときに言う言葉になってしまいます。子どものことを受け入れた後で、社会的ルールとして「やってしまったらごめんなさいだよね」と教えてあげる。それでも言えないときは「じゃあお母さんが謝るね」と言って代わりに自分が謝る姿を見せてあげましょう。誰かを傷つけてしまったときには「ごめんなさい」と言うものなんだと伝えるのが大事です。謝れる人になるためには謝っている姿を見ることが必要だし、自分の代わりに精一杯謝ってる人がいる、謝らなきゃいけないんだと思ってもらうことが大切です。