歯科医師として歯科診療に携わりながら、「未来の子どもたちの笑顔に貢献する」という思いで一般社団法人HEALTHY ORAL PROJECTを立ち上げ、活動している尾形愛先生。歯が生える前の乳児から「お口からみる全身の成長」をテーマに講演や指導を続けられています。今回から、歯科医師として「子育て中のママ・パパに知っていてほしいこと」を綴っていただきます!
プロフィール
大阪市住吉区出身。歯科医師として多数のクリニック勤務の後、一般社団法人HEALTHY ORAL PROJECT設立。小児口腔育成 プログラムの構築、スタッフ指導、 院内セミナーや患者の指導を行っている。

第1回「お口の発達が全身に与える影響〜なぜ口腔機能の発達が大切?入門編〜」
初めまして、歯科医師の尾形愛です。今回から子どもたちのお口の発達と全身の関係について、私の思いを書いてみたいと思います。
長年この仕事をしていると、子どもたちにさまざまな変化が起こっているのを実感します。子どもたちを取り巻く環境も変わりましたが、特にお口の中はたった30年で大きく変わりました。
虫歯のある3歳児は、2人中1人から10人中1人と急激に減りましたが、逆に歯並びの悪いお子さんは5人中4人と増えています。また姿勢の崩れからお口ポカンになったり、いびきをかく子どもも増えました。「歯医者さんなのに、姿勢や睡眠の話をするの?」と驚かれることがあります。実は、お口の発達は全身の健康と深く結びついているのです。
お口には「食べる」「話す」「呼吸する」という三つの大きな役割があります。これらの機能が正しく発達することで、体全体が健やかに育ちます。逆に、お口の機能に問題があると、思いもよらない影響が全身に広がることがあります。
「食べる」機能
よく噛むことで顎の骨や筋肉が発達し、歯がきれいに並ぶスペースができます。また、咀嚼は脳への血流を増やし、記憶力や集中力を高めることが科学的に証明されています。よく噛む子どもは学習能力が高い傾向があるという研究結果も出ています。
「呼吸する」機能
本来、人間は鼻で呼吸する生き物です。鼻呼吸では空気が温められ、加湿され、細菌やウイルスが除去されます。ところが口で呼吸すると、風邪やアレルギーのリスクが高まるだけでなく、歯並びが悪くなったり、睡眠の質が低下したりします。睡眠の質が悪いと成長ホルモンの分泌が減り、発育や学習にも影響が出ます。
「話す」機能
舌や唇、顎の動きが正しく発達することで、明瞭な発音ができるようになります。これはコミュニケーション能力の基礎となります。
さらに、お口の機能は姿勢とも関係します。姿勢が悪いと噛む力が十分に発揮できないだけでなく、最終的にはお顔の見た目にも影響します。お口と姿勢は相互に影響し合っているのです。
今後の連載では、妊娠期から学童期まで、各時期のお口の発達と全身との関わりを詳しくお伝えします。「食べる」「呼吸する」「話す」という当たり前のようで奥深い機能が、どのように育ち、どう全身の健康につながるのか。そして、保護者の方が家庭でできることは何かを具体的にお話ししていきます。